
創作料理とワインのお店 上田慎一郎。
シェフ上田慎一郎が綴る、
「たべるおもいで」を通して日々の出来事を見つめるBLOG。
日々の生活にスパイスを。
豊かな食生活を共に!
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2025/10/17 (Fri)
SHINICHIROU BLOG〜月はみていた〜
Vol.64「お袋のガラケー」
わたしの携帯の通話履歴から、
(母)の文字が消えた。
毎朝、
飼っている保護犬【チャオ】と
散歩するとき、毎回母に電話した。
他愛無いことを数分しゃべる。
安否確認でもあった。
少しだけ涼しくなったお決まりの道。
秋風が心地良かった。
それを伝えようかと、
ふと、
携帯を出した。
あ、
お袋はもう、
この世に居なかった。
携帯も解約したんだ。
お袋は死ぬ間際、
意識が朦朧としてるのか、
沢山電話をかけてきた。
それは仕事中、夜中、早朝と
わたしの生活に支障をきたした。
その都度、
諭すように、
怒るように伝えて電話を切った。
時には、お袋が一人ぶつぶつ言ってたり、
無言の時もあり、
そんな時もわたしは
そのまま携帯を切った。
今思えば、
もう少し優しく、
お袋の気持ちを聞いたり、
話してあげれば良かったなと思う。
仕事中つくっている
料理のクオリティは
少し下がったかもしれないが…
そんなことを考えながら、
澄み渡る青空を見ていた。
すると知らない人が、
チャオに向かって
「三本足ですごいね、えらいね」と、
頭を撫でて貰っていた。
なんとなくお互い御礼を言う。
三本足で元気に走るチャオは、
知らない間に
誰かの勇気や力になっていた。
他のワンちゃんが来たら、
一目散に逃げるのに…
「今チャオ散歩してるねん。
また知らん人に誉められたわ。」
なんとなく、ひとりごちた。
チャオはホンマ偉いなぁ、
慎一郎も身体には気ぃつけや。
なぁお父さん…慎一郎から電話…
あ…!?
お袋は、
あの時わたしと話したかったんやな。
昼も夜もわからん病室で、
ずっとわたしからの電話がないから、
勇気を出して、
わたしに電話かけてきたんやな。
今頃気づいたわ。
ごめんお袋…
秋風が、
少しだけもの悲しく
枯葉を運んだ。
あいしてる
上田慎一郎