【シェフが紡ぐ小説】 賄い探偵 02

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【シェフが紡ぐ小説】 賄い探偵 02

UEDA SHINICHIROU

シェフ上田慎一郎が描く小説。
随時更新中!お見逃しなく!!

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部屋の中で、
無機質なパソコンの明かりだけが灯っている。
坂本は、巧みにブラウザーを操作し、
最後にキーボードのReturnキーを押した。
そのまま藤原にメールを入れる。

レストランカシータから
一件の受信メール。
目頭を押さえながら
坂本は受信メールを開く。

〜本日15:00ビデオ会議に参加お願いします。
パスワード…〜

準備中の札が下がる、
レストランカシータ。

鳥谷がつくった賄いを食べ終える。
米山理沙はお皿を重ねながら、
「鳥谷さん、賄いご馳走様でした!
スープカレー美味しかった〜」

「いえいえ、
北海道産の食材が良かっただけですよ」

鳥谷はそのままおちょぼ口にスプーンを運ぶ。
その口のまま、
「理沙ちゃんも、社員旅行行くんですね」

「だって、北海道でしょ!
一度行ってみたかったんです!
それに藤原さんと鳥谷さんとだったら安心ですしね」

鳥谷はおちょぼ口をハンカチで拭いながら、
「それはまだ分からないんです、
カシータにはもう一人スタッフがいてて、
今日zoomで確認するんですよ」

「えぇ〜?
スタッフさん、まだ居てるんですね
知りませんでした!
藤原さん、どんな方なんですか?」

「そ、そうだなぁ…。
名前は坂本。
お店には全く来ないから知らないのも無理はない。
実は何処に住んでるのか俺も分からないんだ。」
鳥谷も頷く。

「坂本さんは、
レストランのホームページ、seo対策、デザインとかを
全部してくれてるんです。
予約が多いのも坂本さんのおかげなんですよ」

理沙はパチパチ瞬きをしながら、
「すごい方ですね!
それに住所不定…
藤原さん、その方も社員旅行に?」

「あぁ、もうすぐパソコンを繋げて、
日時と場所を報告しようと思っている。
いつも世話になっているから一緒に行きたいんだが、
あいつは多分…いや、絶対に来ない」
鳥谷もそれに同調する。

「坂本さんは、
藤原さんとだけ信頼関係を築いてる感じですもんね、
僕も実際には会った事ないですし」

「ビデオ会議、わたしも参加しても良いですか?」
興味津々という感じで理沙が笑った。

時間になりパソコンを繋げる。
坂本はすでに待機している。

鳥谷が大声で
「坂本さん!お久しぶりです!」

「あぁ鳥谷くん。お疲れ。体重は増えたかい?」

「ご覧の通りですよ!益々痩せました!」
坂本はメガネの奥の目を細めて笑った。

「鳥谷くん。隣の女の子は誰?」

「スタッフの米山理沙ちゃんです!」

「坂本さ〜ん!初めまして!
米山理沙です。
いつもありがとうございます!」

「理沙ちゃんも一緒に社員旅行、行くんですよ」

「社員、旅行…?」

「あ、悪い坂本!
今日はその件なんだ、
今年の社員旅行は北海道にしようと思ってるんだが、
坂本…やっぱり行かないよなぁ?
まぁ、あれだ、一応確認取ろうと思ってな。
だけど元気そうで何よりだ。
いつも縁の下の力持ち本当に助かってる。
ありがとうな坂本!
また何かあったらメールするから」

「いく…。」

「えっ?坂本!何だって⁉︎」

「坂本社員旅行参加です」

藤原と鳥谷は顔を見合わせた。

「坂本さん!行きましょ!北海道へ!!」

理沙が坂本に伝えると、
坂本は画面の中で
俯きながら頭を掻いた。

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国際空港(国内線)
正面ロビー am9:20

「藤原さん!おはよう御座います」
「鳥谷、おはよう!
すごい重ね着だな。
それでも着痩せしている…」
「僕、寒がりなんですよぉ、
温めてくれる脂肪が無くて…
骨と皮なんです。良い出汁出ますよ!」

藤原は米山と坂本が
こちらへ来るのを見つけた。

「良い出汁でますよ!
藤原さん聞いてます?」
「あ、あぁ鳥ガラ、理沙と坂本だ」
「誰が鳥ガラですかっ⁉︎」

「おはようございまぁ〜す」
「お、おはよう」
「電車で坂本さんと一緒になりました!
ね坂本さん!」
「はい偶然一緒に…」

「まさか坂本が来てくれるなんて思わなかったよ。
なぁ鳥出汁」
「って!藤原さんそれわざと間違ってませんか?
あ、理沙ちゃん、坂本さん、おはようございます!」
「ふふふ」
「ハハハ」

「それじゃあ行こうか、北海道へ!」

〈国内線234便ご搭乗のお客様は
搭乗口52番にお越しください〉

藤原たちは機内に入る。
各々が座席を探す中、
坂本が何かを考えるように、
機体前方を見つめている。

「どうしたんですか?坂本さん」
「鳥谷くん、
北海道大学の前川博士知ってる?」
「いえ、知りません」
「水と空気からフリーエネルギーの開発に成功したんだ。
その博士とチームが前に乗ってた」

「フリーエネルギー…
なんかすごいですね!」
「うん。めちゃくちゃすごい。
実用化されれば、日本、いや世界が
僅かなコストで生活出来るようになる。
救われる命がたくさんあるんだ」
「それが日本から…すごい」

鳥谷は座席を確認しながら理沙の横に座った。
しばらくすると、
飛行機はゆっくり動き出した。

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「鳥谷さん、顔色悪いですよ」
「理沙ちゃん、僕高所恐怖症なんです…ほら!又揺れた!」
「痩せすぎなんです!全然怖くないですよぉ」
「なるほど〜。痩せてるから揺れるのかぁ、うわっ今度は浮いた!」

「藤原さん、良いチームですね」
坂本はメガネを触りながら藤原に言った。

「うん。本当に。二人のおかげでレストランも安定している。
何より理沙が明るいから良い雰囲気なんだ」
「それに可愛い…」
「坂本、なんか言ったか?」
「な、何も。」

「まぁでも、本当によく来てくれた。坂本にはいつも感謝してるんだ」
「藤原さん、こちらこそです。座席が違うかったらもっと良かった…」
「あぁそうか!坂本、悪い!窓側が良かったのか?変わろうか?」
「大丈夫です」
「遠慮しなくて良いぞ」

(234便は安定飛行に入りました。
只今よりベルト解除となります。化粧室ご利用のお客様は…)

「良かったぁ。落ちなかった」
鳥谷は大きく息を吐きながら言った。

「落ちません!ところで鳥谷さん、藤原さんと坂本さんって
どういう関係なんですか?」
「えっと、同じ学校の先輩と後輩みたいです。
坂本さん、小学生の時からパソコンおたくだったようです、
当時から藤原さんだけが、坂本さんの凄さを見抜いていた」
「へぇ!藤原さんITとか全然興味なさそうなのに。
あ、そういえば私おにぎり握ってきたんですよ、食べれますか?」
「ありがとうございます!食べれます!」

「坂本さん!理沙ちゃんのおにぎりです!藤原さんにも渡してください」
鳥谷がラップに巻いた大きめの、おにぎりを坂本に渡した。
「わぁありがとう、理沙ちゃん」
「サンキュー理沙、丁度小腹が空いてたんだ!」
「炊き立てご飯とのツナマヨです!」
「最高!いただきまーす!」

藤原は窓の外を見ながら、おにぎりを頬張った。美味しい。
安定した機体の窓から、快晴の空と綿菓子の様な雲が流れていく。
そういえば藍の故郷も北海道だったな。

隣では心なしか明るくなった坂本が、
感嘆の声をあげながらおにぎりを頬張る。
「理沙ちゃん。天才だ…美味しすぎる…」
坂本は目を瞑って心から感心したように言う。

「坂本さん大袈裟ですよ!唯のおにぎりです!
でも嬉しいです。ありがとうございます!」
藤原は二人のやりとりを見ながら、
こんなに自己表現する坂本を初めてみた。

【藤原くん…聞いてくれ。この飛行機、危ない…】

藤原は坂本を見る。
坂本は目を瞑り美味そうにおにぎりを咀嚼している。

機内の照明が僅かばかりか暗くなり、ベルト装着サインが点灯する。
その刹那、ドン!という音と共に機体が振動し、
乗客達は一瞬無重力状態になった。
「きゃー!」
数人の悲鳴が上がり、その中に鳥谷も声も入る。
(積乱雲を通過中ただいま揺れていますが
飛行の安全性には問題ありません)
機内アナウンスが流れ乗客は安堵する。

「坂本!」
はっとした顔の坂本と目が合う。
「坂本、お前を守っている方からこの飛行機が危ないと」

坂本は足元のバックからパソコンを取り出し立ち上げる。
素早くキーボードを叩き衛星側位システムに入る。

「藤原さん…!この飛行機、2機の軍用機に追尾されている…!」

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